15年目の里帰り

私は恐らくいわゆる「親不孝」だ。結婚してからかれこれ10以上経つというのに、その間実家に帰ったのは2回だけだ。初めて帰ったのは結婚した年。次に里帰りしたのは、たぶんお爺ちゃんのお葬式の時だったと思う。それ以外はずっと実家と距離を置いて生きてきた。私は実家も田舎も好きではなかったから。だから、どうしても足が向かなかった。
そんな私のところに、母から電話が来たのは一か月くらい前だったと思う。体調を崩した父を病院に連れて行った母が医師から聞いたのは、末期の肝臓がん。もうどうすることもできないという状態だった。今まで自由に生きてきた父だから、後悔は多くはないのだろう。でも、こんな時になってやたら子供時代の父との楽しかった記憶を思い出す。

「いなくなるのか……」

私の行動は早かった。すぐにATMに走ると、20万円おろした。それからである。毎週末父に会いに電車に乗り込む。辺鄙な場所にある私の実家に行くには、最寄駅についてからもタクシー代がかなりかかる。でも、支払う費用を一度も惜しいと思ったことはない。実家に帰る度に、父はもう来るなと言う。自分の家庭を守れと厳しい目で言う。それでも、私は行かずにはおられない。行って、父の昔話を聞きながら約2時間のマッサージを行うのだ。
ハンドマッサージはいい。マッサージをすると言えば、何も言わずとも自然と握手ができる。独身時代に取得していた資格が、まさかこんなところで活きるとは思わなかった。今週末も私は電車で2時間揺られる。生きていると信じて、ATMに向かう。

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